外国人の雇用
外国人旅行者の来日が増加する中、ホテルや旅館から「外国語と日本語の両方の会話ができる外国人を採用したい」との相談が増えております。
永住者、定住者等、身分系の在留資格を持っている場合を除き、外国人を雇用する場合、入管法で定められた職種でしか雇用することはできませんし、外国人の学歴などにも定めがありますので、このルールの中でしか採用することができません。また、仮に在留資格が取得でき、無事採用されたとしても、認められた職種でしか雇用することはできません。
例えば、企業のエンジニアとして採用した外国人が工場のラインで働くようなことは認められませんし、営業職として採用した外国人を清掃員や用務員などの現業職にすることはできません。
留学生が専門学校や大学を卒業した後、日本の企業に就職した場合、入管に在留資格変更許可申請を行うことになります。この場合、一般的には「人文知識・国際業務・技術」という在留資格を取得することになります。その際に、例えば就労する職務内容について、「貿易業務」「販売・営業」「翻訳・通訳」などと職務内容を申告しますし、当該企業の業務と一致するかも審査の対象となります。例えば、居酒屋チェーンの会社が食材の輸入担当として外国人を採用し、入管から許可を受けたが、実は単なる居酒屋の店員として働いていれば、不法就労となりますので、外国人のみならず、採用した側も不法就労助長罪に問われる可能性もあります。
ホテル・旅館の特徴
通常、4年生大学を卒業している場合、現業職でなければ、貿易や国際業務以外でも営業、広報、事務など比較的幅広い職種で許可を受けることが可能です。しかし、意外と不許可となるケースが多い業種が、ホテル・旅館業です。なぜでしょうか。
ホテル・旅館では、清掃、リネン品の収集、宿泊客の荷物運搬、レストランのホールや厨房など現業職が多いのが特徴であり、例えば、フロント業務を行なっていても、宿泊客の荷物の運搬をすることもあるでしょうし、小規模のホテルや旅館では、清掃の仕事もするでしょうし、レストランのホールの仕事もするかもしれません。そのため、本当にフロントの案内業務だけをするのか判然としないことがあります。また、ホテル・旅館では、外国人がアルバイトとして、そうした清掃などの仕事に就いていることから、実際には現業なのに虚偽の申請をしているのではないかと疑われやすいこともあります。そのため、必然的に入管の審査の目が厳しくなっています。
一方で、大学や専門学校を卒業すると、比較的、容易に日本企業に就職できるため、ホテルや旅館に就職が決まると、安易に在留資格変更許可申請をした結果、不許可となってしまいます。ホテル・旅館業の分野では、大学を卒業した外国人や旅行系の専門学校を卒業した外国人を採用し、入管に在留資格変更許可申請をする場合、ホテル・旅館での仕事の特性を理解した上で、通常の企業への就職の場合よりも一層慎重に入管にビザ申請を行う必要があります。
安易に申請を行うと、簡単にあっさり不許可にされてしまいます。そして、一度不許可になった案件を再申請する場合、より詳しい説明が必要となります。
再申請の場合、当然1度目の申請時に提出した書類も使いますので、同じ資料ではダメですし、異なる資料を出せば、許可を受けるために虚偽申請をしているのではないかと疑われるので、当然に審査期間も長くなりますし、厳しく審査されることになります。そのためホテル・旅館側は、採用計画に狂いが出ますし、外国人は就労できなくなるなど、双方にとって不利益を被ることになりますので、注意する必要があります。
ですから、外国人の採用で迷ったら、安易な申請をする前に必ずご相談いただきたいと思います。相談は無料ですので、是非、ご利用下さい。
次に、ホテル・旅館で外国人を採用する理由を考えてみまししょう。
外国人を採用したい理由
①外国人観光客の対応のため、フロントに外国語ができる従業員が必要
②外国人観光客誘致のため、営業部門に外国語のできる社員を配置したい
③外国人は日本人より安い賃金でも文句を言わずに働くので採用したい
④ルーム清掃やリネン品の収集のアルバイトをしていた留学生の働きが良かったので、学校卒業後は正社員として採用し、引き続き同じ職種で雇用したい
⑤求人を出したところ、日本人の応募に混じってたまたま外国人がいたが、面接をしたところ、優秀だったので採用したい
他にも採用したい理由はあると思いますが、すぐに思いつくところを書き出してみました。
採用する外国人が、留学の在留資格をもつ学生であるとして、入管に在留資格変更申請をして就労資格(就労ビザ)を取得するのに適切な理由は①〜⑤のいづれでしょうか?
簡単でしたね。
①、②、⑤は、⭕
③、④は、❌
です。
ただし、適切な理由があれば許可を得られる訳ではないので、ご注意下さい。
③は問題外です。外国人を採用する場合、日本人と同等以上の賃金で採用する必要がありますので、仮に最低賃金以上であったとしても、同じ仕事をする日本人より安い給料で雇用してはいけません。
④は、ルーム清掃、リネン品の収集、ベッドメイク、宿泊客の荷物の運搬、レストランのホールなどの現業職です。単純労働ができる就労資格は(資格該当性)はありません。
それでは、①、②、⑤の場合であれば、入管から許可が受けられるのでしょうか。個別にみていきたいと思います。
フロント業務
外国人の観光客、特に中国人の観光客が増加する中、ホテルのフロントに中国語などの外国語ができる従業員がいれば助かりますね。
大学を卒業した者や専門学校の日本語の翻訳・通訳コースやホテルサービスやビジネス実務を専攻し専門士の称号を付された者が、外国語を用いたフロント業務や外国人観光客の案内や要望対応をする場合は適切と言えます。しかしながら、その場合でも、そのホテル・旅館の外国人宿泊客の多くが使用する言語と、外国人従業員の母国語が異なる場合、十分な業務量がないと考えられます。つまり、中国人がたくさん宿泊するホテルで、バングラデシュ人を通訳業務を行うとして採用しても仕事がないので、ほかの現業の労働に従事するのではないかと疑われるのです。
営業・広報業務
営業や広報の場合、ホテルや旅館に限らず、一般の企業への就職と同じように考えれば大丈夫ですが、ホテルや旅館の場合は、業務が多岐に渡り、現業へつながりやすいため入管の目が厳しいことから、疎明資料は丁寧に作成する必要があります。外国人観光客の誘致のため、営業部門などで広報・宣伝を行ったり、外国の旅行会社との交渉や契約と行った業務、宿泊プランの立案等などの業務は全く問題ありませんが、これらの業務を間違いなく行うこと、業務量が十分にあることなどを資料を作成して説明する必要があります。
研修期間の扱いについて
外国人の従業員の場合で、例えばフロント業務を行うとして採用した場合、他の業務を行うことは違法になります。とは言っても、フロント業務をしていても宿泊客の荷物を運ぶことはあるでしょうし、他の仕事をすることだって当然ありますので、主たる業務に変更がなければ、他の仕事を一切してはいけない訳ではありませんので、大丈夫です。
ここで、研修期間について考えたいと思います。
どこの会社でも就職すれば研修があります。ホテルや旅館ではどうでしょうか。新人には、ルーム清掃、ベッドメイク、ベルボーイ、レストラン業務などいろいろな部署を経験させることもあるでしょう。研修期間に入管に申請した職務以外を行うことは可能でしょうか。答えは、認められる場合と認められない場合があります。それは、主に研修期間によって判断されます。例えば、入社後4か月を研修期間とし、その間にいろいろな部署で経験してもらうようなものであれば、許可されると思います。反対に1年間とか2年間というような期間では、認められないでしょう。「人文知識・国際業務・技術」の在留資格に変更した場合、通常、最初の在留期間は1年となります。研修期間が1年以上となると、在留期間のすべてが、申請とは異なる業務を行うことになりますので、申請書記載内容が虚偽とは言いませんが実態と異なることになってしまうからです。
ホテル・旅館で外国人を採用する場合、入管は、研修期間、研修内容等の研修計画まで詳細に調査、審査を行いますので、外国人を採用する場合は、適正な研修計画を作成する必要があるのです。
日本人と同等額以上の報酬であること
求人に応募してきた学生の中にたまたま外国人留学生がおり、優秀なのでぜひ採用したいという場合、当然、賃金面等の待遇が日本人と同じでしょうから問題はないでしょう。入管では、学校での専攻や職務内容などに問題がなく、受入機関(雇用先)にも問題がない場合でも、同じ条件で採用された日本人の給与を確認し、雇用契約がそれよりも安い給与である場合、日本人と同等以上でないため、不許可とします。
大学卒と専門学校卒の違い
「人文知識・国際業務・技術」の在留資格は、大学卒業の者でも専門学校卒業の者でも取得することは可能ですので、どちらも採用することは可能です。ただ、学校での専攻と業務の関連性において、大学卒は比較的緩やかに判断されるのに対して、専門学校卒の場合は厳格に判断されるため、例えば服飾デザイン、製図などのコースを専攻していた場合、専門学校における専攻科目と従事しようとする業務との間に関連性が認められないため、不許可になります。
ここまで、ホテルや旅館で外国人を採用する場合の注意点等について、簡単にお話ししてきました。より具体的な内容は個別にご相談いただければと思います。
前田行政書士事務所では、外国人雇用、外国人採用に関する手続きのエキスパートとして、コンサルティングから入管へのビザの申請、在留資格変更許可を受け採用した後の外国人の労務管理のアドバイスまで、外国人の採用、雇用に関して一貫したサービスを提供しております。特に、初めて外国人を採用する場合、分からないことや不安なことがたくさんあると思います。ビザの申請手続きだけでなく、国ごとの外国人従業員の特徴、家族の問題、社会保険の問題、労務管理の問題、外国人同士のトラブル、宗教の問題など、知っておかなければならないことが山ほどあります。しかし、基本を抑えれば、さほど難しいことではありませんし、私どもがサポートいたしますのでお任せいただければと思います。
私ども【前田行政書士事務所】は、東京・多摩地区に事務所があり、東京入国管理局管内の東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬、山梨、長野、新潟の関東甲信越地方を中心に業務のご依頼を承っておりますが、特にホテル・旅館業に関しては、地方からのお問い合わせが多く、全国からメールや電話での相談を受けておりますので、都道府県・地域に関係なく、お気軽にお問い合わせ下さい。
ホテル・旅館で外国人の採用を検討している皆様、前田行政書士事務所までお気軽にご相談下さい。