1 違反審査と在留審査の違い
正規在留者が日本人と結婚した場合、もしくは来日前に婚姻手続きを行い在留資格認定証明書交付申請をする場合と、在留特別許可における入管の審査内容にどのような違いがあるのか見ていきます。
正規在留者やまだ来日していない外国人の方が結婚を理由に在留資格を取得する場合、在留資格変更許可申請もしくは在留資格認定証明書交付申請を行うことが一般的です。この場合、東京入管であれば永住審査部門、出張所などで申請を行います。在留審査については、また別の機会にお話ししたいと思いますので、ここでは簡単に触れておきます。
在留審査の流れですと、申請書を記入し、必要書類として婚姻を証明する資料、戸籍謄本、配偶者の課税証明、スナップ写真などを提出します。更に、婚姻に至った経緯を説明する文書や国際電話の履歴や過去のメールのやりとりなどを添付したりします。そのほか、入管から求められた資料を追加で提出します。それらをもとに許可不許可、交付不交付等が決まります。審査は原則として書類審査で行いますので入管が疑問に思うと予想される部分は証拠、文書など書類で補い、申請内容を補強していきます。追加書類の提出が求められずに、いきなり不許可になることもあります。このように在留審査では、書類中心の審査で、入管の内部にある基準を満たし、偽装結婚の疑惑がなければ許可になります。本来は、実態調査といって、申請人の自宅で申請内容に偽りがないかの調査をするのですが、入管は多忙であるため、偽装婚の疑いがあるが、証拠が不足している場合などの場合に行われますが、実態調査が行われることは多くありません。
一方、在留特別許可の手続きにおいては、申請書類を揃えて提出し、それを審査するという訳ではありません。弁護士や行政書士の中には、在留特別許可の手続きの際、在留審査のように沢山の書類を揃えて提出する先生が多数見受けられます。私たちは報酬を受けて仕事をするので、とりあえず立派な書類を作成するのも理解できますし、私の事務所でも多少の書類は作成します。しかし、在留特別許可の手続きにおいては、出頭申告、摘発収容の別なく、こちらから書類を整える必要はありません。
では、どうするか。全て入管の指示に従っっていればOKです。出頭申告の場合は、さすがに結婚を証明する書類、住民票、スナップ写真、課税証明書、源泉徴収票などを持参するべきですが、立派な上申書などの書類を作成したりする意味はありませんし、むしろ提出しない方が良いです。
なぜ、立派な文書が不要なのか。ここが在留審査との大きな違いです。違反審査においては、現状が非常に重要視されます。極端に言えば、過去がどうであれ、出会った経緯が不自然であろうと、売春の客との結婚であろうと、現在の結婚がまじめなものであり、夫婦として一緒に暮らしていることが間違いなければ、良いのです。入管が提出を指示するものは、夫婦双方の人定事項に関するもの、婚姻の成立を確認するためのものです。婚姻の信憑性については、在留審査のように書類では行わず、入国警備官や入国審査官が自分で供述調書をとったり、実態調査をしたりするので、書類は必要ないのです。最低限必要な情報は出頭申告書に記載する内容で十分なのです。
逆に弁護士や行政書士が立派な書類を作成し提出した場合はどうでしょうか。はっきり申し上げて、提出しない方が良いです。大体、弁護士や行政書士の先生方が作成した書類はきれいで立派なものですが、中身も良いことしか書いてありませんし、当事者の言葉ではないのです。さらに容疑者に都合よく作成しているため、実際と違うことが書いてあったりします(大抵は、実際より良く書いてあります)。このような書類は、審査官はほとんど参考にしません。ナナメ読みをする程度です。なぜなら、そんなことは自分で取り調べをするからです。
弁護士や行政書士の中には、入国審査官の実態調査を真似て、自宅の部屋の細かい部分の写真を撮って資料にまとめたものを提出したりする先生もいますが、入管職員はおそらく鼻で笑っています。実態調査は、抜き打ちで入管職員が行うから意味があるのです。自分で同居していることを主張するために写真を撮って提出しても意味がありません。そんなもので在留特別許可はできませんし、許可をせず退去にすることもできないのです。そのような資料は、「何かやましいことがあるのではないか」という疑念を生じさせる可能性すらあります。
一部の行政書士事務所では、「在留特別許可に特化した専門のチームで調査と資料の作成を行う」と謳っている事務所があるようですが、これによって余計に費用がかかるようでしたら、あまり意味のないことに高額な費用を払うことになりますので、十分気をつけて下さい。在留特別許可の手続きは、「ありのまま」に問題がないのであれば、入管の指示待ちで十分ですし、無駄な費用も必要ありません。退去強制手続は裁判ではありません。弁護士や行政書士を頼める人は許可になり、お金のない人は退去強制になるような不公平なことはありません。入国審査官は、弁護士や行政書士の有無に関係なく同じ基準で判断しますし、違反手続においては、すべて入管側で調べを行いますので在留審査部門の調べとは全く異なるのです。
もし、あえて書類を作成して提出するのであれば、本人、配偶者が自筆で作成した文書ならば提出するする価値があります。パソコン作成では誰が作成したか証明できないので、自筆がよいです。文章が稚拙でも構いません。一生懸命書いてあるものに価値があります。本人が日本語で書けなければ、母国語で十分です。違反審査では、通訳人を多用していますので、職権で翻訳しますので大丈夫です。
スナップ写真は結構重要です。出頭申告で入管に提出されるスナップ写真のほとんどが、自宅や近所のコンビニの前などで撮影したものがほとんどです。このような写真は信憑性を担保するのには全く意味がありません。入管が実態調査をする際の聞き込み用に使われるだけです。逆に、少しセピア色になった10年、20年前に旅行に行った写真などは、とても有効で信憑性が高いものです。
因みに、最近、スナップ写真の提出を求められたら、スマホの写真を見せるような非常識な人を見かけますが、在留特別許可のお願いをしているという姿勢が全く感じられません。入管から相手にされませんので、当然ですが、必ずプリントしたものを提出するようにします。
そして、在留特別許可では実態調査が重要となります。必要に応じて電話を使用したり、聞き込みをしたり、自宅を抜き打ちで訪問したり、いろいろな調査をします。いろいろな入管対策をしている人もいるようですが、下手な対策はすぐにボロが出ます。本当の結婚生活をしているのであれば、特に問題となることはありませんので、自然体で大丈夫です。むしろ、実態調査をしてもらった方が良いと言えますが、調査をされるということは、多少なりとも疑いを持たれている可能性があると思った方が良いでしょう。
ここまでで、大体ご理解できたのではないかと思いますが、同じ結婚ビザ、配偶者ビザの審査でも在留審査とは審査のやり方も基準も違います。
永住審査部門の場合は、婚姻の信憑性のほかに、配偶者の扶養能力なども重視されますが、違反審査・在留特別許可においては、婚姻の信憑性の中でも、特に現在の生活状況が重要で、同居していることがかなり重視されますので、理由のない「通い婚」「週末婚」は認められないでしょう。逆に、配偶者の収入が低いとか扶養能力がないことで許可が受けられず退去強制になることは少ないです。
実際、在留特別許可の方が在留審査に比べて、かなり甘い審査である気がします。正規在留者が厳しく、違反者に甘いというのは、本来、おかしな話ですし、手数料のことを言えば、正規在留者が在留資格変更許可を受けて「日本人の配偶者」の在留資格を得るには4,000円の手数料が必要ですが、「在留特別許可(日本人の配偶者)」の場合は、無料です。なぜ違反者が甘い審査で済む上に無料なのか、納得できない向きもありますが、これが入管行政の現状です。
稀に、永住審査部門で「日本人の配偶者」への在留資格変更許可が不許可になり、わざと不法残留をして違反手続きで在留特別許可を願い出る外国人がいます。これを勧める行政書士もいるようです。上記の通り、在留特別許可と基準が違うことから、許可になる可能性もあるのですが、いつ逮捕されてもおかしくない状況に身を置き、さらに収容される可能性もあることから、このような手続を採ることは絶対にやめるべきですし、違法状態になることを勧めるような行政書士を信用するべきではありません。
また、このような手続きにおいて、仮に在留特別許可をしたら同じ入管で異なった判断をすることになりますので、短期間での許可は望めません。長い時は1年以上かけて審査を受けることになります。
もし、結婚ビザへの在留資格変更許可が不許可になるなどお困りの場合は、是非【前田行政書士事務所】までご相談ください。
2 偽装結婚とは
ここまでのお話で、「偽装結婚」「偽装婚」という言葉が出て来ました。では、そもそも偽装結婚とは何を指すのでしょうか。
「偽装結婚」は電磁的公正証書原本不実記録及び同供用罪になります。実際、偽装結婚ブローカー等が摘発されると、関係した外国人や日本人の配偶者などが芋づる式に逮捕されます。このようなケースは、まさに偽装結婚の典型で、在留資格の取得だけ目的として、お互いが形式的に結婚するもので、そこに金銭のやり取りがあることが多いです。しかし、近年は、行きつけのフィリピンパブの女の子に頼まれて、可哀想だからという理由だけで、無償で結婚するケースや、障害者の親族などがお金欲しさに意思表示ができない障害者の娘を外国人と勝手に結婚させるなどといった非常に悪質なケースも見受けられます。
「偽装結婚」について、一部のサイトでは、立証が難しいので逮捕されることはない、というような記載がありますが、上記のようなブローカーを介している場合、男女双方を取り調べて逮捕・起訴、有罪判決、退去強制という流れで処分されますので、甘く考えない方が良いと思います。
上記のケースは、夫婦双方の当事者が夫婦となる意思はないのに、結婚を行なっているので、双方とも偽装結婚の認識があります。こうした結婚の場合、入管がきっちり調査をすれば、大抵はバレるので、ある意味、分かりやすいと言えます。
しかし、一番、入管が手を焼くのが、「利用婚」などと呼ばれている形態の婚姻です。この「利用婚」はかなり多いと思いますし、在留特別許可も認めざるを得ないところもあり、困った問題とも言えます。
「利用婚」とは何か、簡単に言えば、外国人側は在留資格の取得だけが目的であるが、そのために、日本人に接近し、結婚するもので、男女ともにあります。日本人側は、外国人を愛しているので一方通行の感情です。つまり日本人を在留資格取得のために「利用」するのです。当然、結婚ビザの取得が目的ですので、ビザを取得したら行方を眩ます外国人もいますし、永住許可を得られるまで婚姻を続け、永住を受けた途端に離婚する外国人もいます。それまでは、夫婦関係を維持するわけですが、最終的には日本人は裏切られることになり、中には入管に泣きつく日本人配偶者もいます。しかし、そこまで入管も面倒をみてくれません。もはや自己責任です。
近年は、この偽装結婚と利用婚の間ともいうべき結婚があります。通称「介護婚」と呼ばれる結婚です。外国人は「在留資格取得」のために結婚し、日本人は自分、若しくは自分の両親の介護をさせるためにに結婚するというものです。そこに「愛」はないのですが、こうした結婚の正当性の判断は、意外と難しいものです。
次回は、在留特別許可の手続き中、最後のインタビューとなる口頭審理についてお話しします。