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在留特別許可について(3)

入管での調査及び審査について

1 違反調査

入管に出頭した場合、あるいは入管や警察の摘発を受けた場合、裁判後に入管にに引き渡しされた場合、いずれも最初に行われるのが、違反調査です。

違反調査は入国警備官(入国警備官と入国審査官の違いは別の機会にお話しします)によって行われます。出頭した場合は、本人が出頭申告書を作成し、入国警備官によって違反調査書が作成されます。

出頭申告では、違反の内容を申告し、結婚を理由に在留を希望するのであれば、婚姻に至った経緯や現在の生活状況について記載します。また、婚姻状況についてのチェックシートを記入することもあり、申告の内容の信ぴょう性の判断材料とされます。わざとらしくイチャついたり、片方だけが一生懸命だったり、不自然な行動は当然チェックされると思って良いです。

これ以上の内容については、悪用されると問題ですので、詳細はお話致しませんが、真摯な結婚であれば何の心配も入りません。

話がそれましたが、違反調査では、氏名、国籍、生年月日などの人定事項、違反事実の確認が行われます。また、十指から回転指印を採取し、過去の入管法違反時の指紋や警察の所有する指紋情報との照合を行います。この指紋照合により前歴がヒットするケースが意外と多く見られます。不法残留中に日本人と結婚して入管に出頭する場合、日本人の配偶者に前歴があることを隠している場合があり、入管で過去の退去歴を追及されてはじめて知るようなこともあります。また、前件記録と生年月日が異なったり、名前のスペルが違ったり、名前そのものが違うなどということもあります。その場合、オーバーステイだとして出頭しても、不法入国として立件される場合もあります(前回退去時が偽の名前の場合は、そのままですが、それを証明する書類が必要になる場合もあります)。

現在は、入国時に空港で生体認証の採取と照合を行なっているので、少なくなってはいるものの、今回の入国が生体認証導入以前の入国であったり、不正な手段で指紋照合をすり抜けた場合、何らかの原因で指紋照合が失敗して入国できた場合(意外と多いです)、今回の入国が船舶密航による不法入国や脱船逃亡による不法上陸だった場合など、入管で前歴が発覚することになります。

いずれにしても、違反調査の際に申告していない前歴が発覚する等ということがないよう、出頭時には本当のことをきちんと申告し説明するべきです。入管側のスタンスとしては、「在留するための特別な許可をお願いするのに、嘘をつくとは何事か」ということになり、印象が悪くなるだけでなく、手続き上も不利益を被る可能性もあります。

逆に、例えば日本人配偶者との婚姻を理由として出頭した場合は、現在の生活状況や夫婦関係が真摯なものであるかどうかが重要視されますので、過去のことは正直に話せば、通常は大きな不利益を受けることはありません(入国警備官や審査官から叱られる程度は我慢してください)。

最悪なのは、手続きが進んだあとで、「実は本当の名前は違うんです」とか「生年月日が違うんです」と言い出した場合、手続きがすべて振り出しに戻ってしまいます。最低でも、それまでの調書や書類の訂正、適条更正が行われますし、嘘の名前で婚姻手続きまでしていると、結婚が無効になる上、虚偽の婚姻届を出したとして、電磁的公正証書原本不実記録、同供用罪に問われる可能性もあります。

前歴と人定事項が違うケースで比較的多いのは、前回来日時に年齢が当該国のパスポートの発給基準に満たない、査証の発給に年齢が満たない等の理由でプロモーターやブローカーが生年月日を偽って書類を用意したケースです。いずれにしても、名前のスペル1つ、生年月日の数字1つで、入管法違反の容疑事実が変わりますので、出頭前に詳細を確認する必要があります。ただ、英語圏ではない国で、名前を英語表記にした時に、微妙にスペルが変わることがあります(たとえばフセインなどです)。これについては、きちんと説明すれば、問題にはなることはないでしょう。

当行政書士事務所にご相談いただき、すべて正直にお話し頂ければ、出頭前に身分事項を含めた問題点を確認し、後々問題にならないようにアドバイスを致します。

なお、違反調査は出頭した日、1日だけとは限りません。必要に応じて、追加書類の提出を求められますし、何ヶ月も待たされる場合もあります。この間、連絡がつかなくなるようなことがないように、引越しする場合などはきちんと入管に報告する必要があります。

逮捕、収容された場合について

出頭申告の場合は入管も在留希望を前提としているので良いのですが、摘発や逮捕され入管に収容される場合は、違反調査の際に、日本への在留を希望する必要があります。概ね8割から9割の容疑者が本国への早期帰国を希望するので、退去強制が前提で手続きが進みます。ですから、入国警備官に対して、「日本人の夫がいるのでこのまま日本に在留を希望したい」と話せばOKです。ただし、在留を希望した場合、違反調査書が簡易なものではなく、詳細な供述調書を作成する手間がかかるため、入国警備官から「じゃあ後で決めて」と促される場合もありますが、そのように違反調査書に記載してもらえば、大丈夫です。

時々、「在留を希望するなら入管の書類にはサインをしてはいけない」と入れ知恵をする人がいます。これに関しては全く意味のない話であり、単に手続きを遅延させる上、入国審査官に悪印象を与えるだけです。入管では様々な書類に署名指印をする必要がありますが、署名を拒否したところで、入管側はその旨を記録した上で粛々と手続きを進めるので、反抗的な態度に意味はありませんので注意しましょう。但し、次項で説明しますが、入国審査官による違反審査の際に帰国を希望すると、口頭審理放棄書に署名指印を求められるので、この書類への署名はしないことです。なぜなら、入国審査官が入管法24条に該当する旨の認定をし、口頭審理が放棄された場合、入管は速やかに退去強制令書を発付しなければならないからです。逆に言えば、警察が別の刑事事件で捜査中の場合など、容疑者が早期の帰国を希望しても、口頭審理放棄書に署名をさせません。入管法24条該当の認定までで手続きを止めて、警察の捜査が終わる、若しくは逮捕を待つ場合もあります。

時々、後になって「口頭審理放棄書に無理矢理サインさせられた」、「言葉が分からずにサインした」などと主張する人がいますが、そのようなことは、まずありません。なぜなら無理に口頭審理を放棄させると後で退去強制令書の取消手続きが必要になったり、訴訟になるおそれがある上、入国審査官は、帰国するかどうか迷っているとか、在留を希望する場合は、その旨を簡単に記載した審査調書を作成し、在留希望の担当審査官に引き継ぐだけで、無理強いする理由も特にないのです。ただ、手続きを行っても在留特別許可の可能性がない場合、いたずらに収容期間が長くなるだけですので、帰国を勧める場合はあります。

在留を希望する場合は、事情をそのまま入国審査官に話せばOKで、相談に乗ってくれることもあります。稀に配偶者がいるのに帰国を希望する場合もあるのですが(理由は、自分の国で一緒に暮らす、1日でも早く収容場から出たい等が多い)、そういった場合、すぐに口頭審理を放棄せずに配偶者とよく相談してから決めるように促すこともあります。

比較的、入国警備官は早期帰国させるための手続きを進めがちではあるのですが、入国審査官による違反審査で口頭審理放棄書に署名しなければ、在留特別許可を希望しているとして手続きが進むので、心配する必要はありません。

2 違反審査

前項で違反審査について少し出てきましたが、ここでは違反審査について詳しく見て行きましょう。

出頭申告や摘発等の別なく、収容令書が発付されると、48時間以内に入国警備官から審判部門の入国審査官に事件の引き渡しが行われます。違反審査の目的は、入国警備官が立件した入管法24条該当容疑事件について、間違いがないか、適条が間違っていないかの審査を行います。実際には、収容令書の発付も入国審査官が行なっているので間違っていることは少ないのですが、審査の中で不法残留ではなく不法入国が判明したため適条変更するとか、出国命令対象者のため退去強制手続き外として放免するとか、入管法24条四号イ(資格外活動違反)として立件したが、容疑不十分とすることもあります。

よく「入国警備官が警察官だとすると入国審査官は検察官と裁判官を兼ねている」と言われますが、実際、個々の案件については、担当入国審査官の判断に委ねられていることも多く、入国審査官の考え方や度量が結果に大きな影響を及ぼすこともあるので、注意が必要です。

もう一つ、違反審査で行われるのが、情状面の聴取です。これが、在留特別許可を与えるかどうかの事情聴取になります。

結婚を理由に在留を希望した場合、結婚した経緯から現在の生活状況まで事細かに聴取されます。前述の違反調査でも同じようなことを聴取されますが、さらに突っ込んだ調べが行われます。特に、入国審査官が怪しいと思った場合(例えば、摘発場所が自宅から遠い。結婚しているのに売春の仕事をしているなど)、あらゆる質問をして嘘を探し出します。また配偶者から供述調書をとったり、必要に応じて実態調査と言って、自宅の様子の調査を行ったり、近所での聞き込みなどまで行います。逆に結婚が真摯なものであるのなら、何も怖がる必要はありません。ありのままをお話しして下さい。入国審査官はプロです。たくさんの偽装結婚のケースを扱っていますので、ベテランになれば、ほぼ雰囲気だけで、偽装結婚を見抜く力があると思って下さい。

違反審査については、次回、詳しく見ていきたいと思います。

在留特別許可のご相談は、東京・多摩地区、小平市の前田行政書士事務所にお任せ下さい。